月のなみだ
魔界大戦記 七幕 アークの過去編 12
12/02/08(Wed)20:49
魔界大戦記
‐祭壇の少女‐


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ボイス:乱G様
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イメージソング:いつか溶ける涙
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この物語はフィクションです。
『アークの過去編』は、精神的に弱い方や、心身病を患っていらっしゃる方には、かなり重い内容になる予定ですので、ご注意下さい。



第七幕 祭壇の少女

#アークの過去編 12

 * * *

 あの日……。
 最愛の妻を失った俺は、強くなることに執着していた。



 ――それから間もなく、2度目の悲劇が訪れた。




 ゴォオオオオ!!


 クライン村は炎に包まれていた。
 家屋は崩れ落ち、悪魔も貴族悪魔である魔族も次々に焼かれてゆく…。
 まるで阿鼻地獄のようだった。
 呻き声や鳴(泣)き声が轟き、原形をとどめない体が横たわる。
 焼け爛れた皮膚の独特の臭いが鼻を突く。

 魔王ルシフェル軍の襲撃。
 魔王サタンの領土であるクライン村を占領しようと攻めてきたんだ。
 ルシフェルは、小さな村でも開拓の余地はあると侵略を目論見たようだ。

 ――魔王という奴等は、どうしてこうも勝手が過ぎるんだろう!
 他人の意見なんて聞かず、己の私利私欲のためだけに動く。
 反逆がいつ起きたっておかしくない。
 力で捩じ伏せる正義。
 ……悪こそ正義なのだと、この世界は謳っている。

 ルシフェルの容姿は、男の俺が見ても美しいと思うほど整えられた顔立ちをしていた。
 金色の髪を持ち、青い瞳を持つ。
 見た目はまるで天使のようだ。

「この村は、我がルシフェル軍の領土とする!
 歯向かう者には、死を与えてくれよう!!」

 声を高々にルシフェルが叫ぶ。
 だが、魔王サタンに忠誠を誓っている村人達が承諾するわけが無い。
 村長は首を縦に振らなかった。

「この村は、サタン様のものですじゃ!
 こんなことをして……ただで……っ!!」

 最後まで言い切らないうちに、村長の首は刎ねられた。
 魔王ルシフェルは見せしめに村長の首を掲げた。 
 ……平伏せば良かったのに、馬鹿な村人達は逆上し、ルシフェル軍を攻撃した。
 2、3人のルシフェル軍が村人によって虐殺された。
 俺を殺そうとしたくらいだ。彼等も、それくらいの力は持っていた。
 少数とはいえど、兵の数を減らされたルシフェルは激怒した。


 
 ――そして、今に至る。
 この惨状は、村人達の浅はかな行動の結果だ。

 炎に飲まれる寸前、全身に水を被り家から飛び出した俺は、なんとか助かることが出来た。
 だが、水場の近くにいなかった家族達は、炎から逃れきれずに…。
 やっとのことで家から出ることが出来た父……アレクセイは、息も絶え絶えに、こう言った。

「アーク…。頼む…私達の仇を討ってくれ……。
 お前の手で……ルシフェルを……」

 ズシャアアア!!

 屋根が崩れ落ち、アレクは炎に飲み込まれた。
 生まれて初めて俺を頼ってくれた父。
 ……あの馬鹿は、塵と化す前に笑ってやがった。

「たの……ん…だ…ぞ」

 それがアレクの最期だった。

 両親も、可愛い妹も、我が家も、ジェシカのおじさんも…。
 林檎園も、ジェシカの家も、彼女の墓も……。
 友人も、知人も……何もかも。
 まるごと炎に飲まれて消えてしまった。

 俺に遺されたものは、アレクの最期の言葉のみ。

 唯一、村人として生き残った俺を見て、ルシフェルはほくそ笑んだ。
 外見こそ天使だが、やっていることはやはり悪魔だ。
 こんなにも多くの命を奪っておきながら、平然としているのだから。

「この状況の中で、よく無事だったな」

 俺は何も言わなかった。
 ルシフェルには、仮面で覆い隠された俺の顔など見えない。
 構わずルシフェルが言葉を続ける。

「名は何と申す?」

 俺の名は……。
 今まで、村では本名を名乗れなかった。
 そして、もうその名を呼んでくれる者は誰一人としていない。
 ……名前を失ってしまったのも同然だ。

「名は……無い」

 俺は掌を翳して暗黒魔法を放った。
 闇が繰り出す疾風が、ルシフェル目がけて迸る。
 ――だが、俺の攻撃は奴の頬を掠めただけで終わってしまった。
 彼の素早い動きで、いとも簡単に避けられてしまったのだ。

「私を殺そうとしても無駄だ」

 ルシフェルが余裕の笑みを浮かべる。
 怒りが最大限まで達した俺は、究極の闇魔法を繰り出した。

「苦しみながら、逝きやがれ!!」

 バシュゥウウウウウ!!

 壮絶なる怨念の塊がルシフェルを包み込み…奴の体を焼き尽くそうとする。
 しかし、奴は完全に飲み込まれる前に防御魔法を唱えた。
 眩い光が辺りを包み、俺の魔法は自らに跳ね返ってきた。

「うぎゃぁああああ!!」

 俺はあまりの苦しさに、のたうちまわった。

 ……本来ならば、敵を抹消させるための魔法……。

 * * *

 俺の意識が薄れて生死を彷徨った。
 魂がバラバラに引き裂かれるような感覚。
 次の瞬間、異変が起こった。
 遥か遠くから聞いたことが無い声が脳裏に届く。
 
『アーク。お前は我が創造した器……。
 亡くすには惜しい人材だ。
 お前は、世界を変えたいか』

 ……世界を……変える?
 一体、どういうことなんだ?

『悪魔を創造したのは、この私だ。
 ……しかし、どうだろう。
 悪魔は悪魔同士殺し合いをし、種族を滅ぼそうとしている』

 悪魔を創造…?
 それじゃ、アンタは……。

『我は悪魔創造神ディアボロ』

 神……だって!?

『弱きものが安心して暮らせる世界を、共に創らないか。
 お前には既に、魔界統一を可能に出来る力を授けている。
 我に力を貸してくれるのならば、さらに強力な力を授けよう』

 ……力。
 そうだ。俺は、力が欲しい!
 ジェシカのような存在でも、安心して暮らせるような世界を!

『承知した』

 ディアボロの声が消えた。

 * * *

 次に俺が目覚めた時は、恐ろしい力が備わっていた。 

 ――不老不死。

 この時から、俺の運命は大きく変わってしまった。

「ふむ。あれ程のダメージを食らっても死なぬとは……」

 ルシフェルは感心しているようだった。

「ルシフェル軍に入らぬか?」

 これには驚いた。
 だが、これはまたとないチャンスだ。

「アンタが俺の上司になるなら……。
 いいぜ。仲間になってやっても」

 ――それから、俺は『シャイン』という名前をルシフェルから授かった。

 ルシフェルには、俺が光に見えたのだろうか。
 ……もしくは、悪魔ならではの嫌味だろうか。
 そんなことは、どうでもいい。

 俺は、ルシフェルの下で働くことにした。


 ――ルシフェル軍に入った俺は、ただひたすら強くなる為に、血の滲むような訓練をした。
 何度も何度も、いつ死んでもおかしくない程の想像を絶するような修行の日々。
 ルシフェルの領土を広げてやるために、様々な町や村を襲撃し、幾人もの悪魔の命を奪ってきた。
 今日に至るまで、一体、何百、何千、虐殺してきただろう。
 やがて、『シャイン』の名は名声を上げて誰もが畏れる存在になった。
 ……信頼出来るルシフェルの右腕として。


アークの過去編(終)
次回へ続く

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